ムスリム(イスラム教徒)にとって、ヨーロッパ人はエキゾティックな野蛮人だった!

ムスリムの視点からヨーロッパ文明、社会、歴史を斬るはじめての書。


国際的なイスラム学界の重鎮、バーナード=ルイスが25年以上もあたためたテーマを、北アフリカ、中東、ヨーロッパの大学で講義、講演し、またBBCで長期間放送されたものをまとめた書。

イスラムと西欧の関係を預言者ムハンマドの時代から新しい視点で照らしだし、いままで語られなかったイスラムとヨーロッパの相違、相克を詳述する。




バーナード・ルイス
1916年ロンドン生まれ。プリンストン大学名誉教授。イスラーム学会の重鎮として、世界各国で講義を行う。著書に「暗殺教団」ほか。



バーナード・ルイス著
尾高晋己訳

2000年3月

ISBN
4921146047

定価
(本体3800円+税)

A5判上製




下巻発行直後に、アメリカの同時多発テロ。イスラムへの関心が高まったせいか、問い合わせが急増。ムスリムのこと、欧米人の意外な側面がよくわかる本。(山)




季刊『アラブ』94号

 著者はユダヤ系イギリス人(1916〜)のプリンストン大学教授で、現在刊行中の英語版『新版・イスラーム大百科辞典』の編集委員であり、ヨーロッパ諸語はもとより、トルコ語、アラビア語、ペルシャ語、ヘブライ語に通じるヨーロッパ・イスラム学の第一人者である。その著書は非常に多く、ルイスは本書刊行(1982)後も次々に著書を発表しており、その活動は瞠目に値する。ルイスによれば、発見という用語は、15世紀以降の西ヨーロッパが非ヨーロッパ世界の発見に着手した過程を記述するために使用されているが、これは誤りで、ヨーロッパは未知の遠くの野蛮人を発見した探検家ではなく、ヨーロッパ人自身がムスリムの探究者により発見、観察された野蛮人であり、つまり発見の過程は相互的なもので、ムスリムの西欧に対する認識は西欧のイスラームに対する認識に劣らず研究に値するが、それはほとんど注意が払われなかったという。

 そのような問題意識から、本書は、その著『オリエンタリズム』におけるエドワード・サイードのルイスの言説に対する執拗な批判に答えるかの如く、ムスリムが西欧に対してどのような認識を持ったか、即ち「ムスリムの見た西欧」について、ムスリム側の膨大かつ多くの言語によって書かれた史料を駆使して解明を試みた極めて高度の学術書である。

 本書によれば、ムスリムは十字軍とレコンキスタ、および二度にわたるウィーン包囲失敗による西欧との接触・衝突により、西欧の存在と文明の発展に目覚めたはずであるが、史料によると、西欧がいち早くムスリム研究に着手していたのに、対するムスリム(主としてオスマン帝国であるが)の西欧研究は軍事技術以外は全く無関心だったという。

 これを日本が明治維新時、岩倉視察団の『米欧回覧実記』に示された、あの熱狂的な興奮と猛烈な探究欲に比すると、あまりに隔絶しているのに驚く。それは、オスマン帝国が、一度は西欧に対し優位に立ったことのある自信過剰が、その原因の一つともいえるが、この両者の西欧文明に対する姿勢の大きな相違については、本書の下巻に言及されていることを付記しておく。
ルイスの著書は非常に多いが、何故か日本ではルイスの研究に関する論考はほとんど無く、その邦訳書も、ルイスとしては比較的簡略な『アラブの歴史』と『暗殺教団』のみである。かかる状況下、今般、本書のような浩瀚な著作が訳出されたのは意義深い。訳文は正確で、膨大・精緻な訳注のついた大いに読みでのある労作である。

 ただ原文に忠実すぎる直訳調で、小見出しも付してないので、読み易いとはいえないのが残念。それに下巻の刊行までに時間がかかるらしいが、この種の本は全巻を通読して初めて全体像が浮かび上がるものなので、下巻の早急の刊行を望みたい。

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