安部公房と境界

未だ/既に存在しない他者たちへ

  • 岩本知恵(著)/2024年3月
  • 4000円(本体)/四六判上製286頁
  • 装丁:矢萩多聞

捉えようとすればするほど曖昧になりがちな境界に着目、安部公房作品を様々な境界を問い直し攪乱する実践として論じ読み取る。

どれほど境界の非安定性を描出し、固定化不可能なものとして記述しても、それが言語によるものであり、しかもそれを論じるという形式をとる以上、既存の言説に対抗するための新たな境界、新たな言説は産出されてしまう。ならば、ここで有用なのは、オルタナティブな言説や境界を打ち立てることではなく、オルタナティブな言説や境界たちを記述することである。それは、集権的で支配的な規範を分散させ、様々な言説や境界や認識の可能性をパラレルに配置することになるだろう。境界の非安定性を限りなく拡張し可視化すること、産出された境界の本質化を限りなくずらし、遅延させ、別の認識の可能性を提示すること、こうした記述によって、境界を固定化する力に抗いたい。(本文より)
(ISBN 9784861109409)

目次|contents

序章
第一章 変形する身体境界―「赤い繭」論
第二章 自他境界=言語化できない欠如の場所―「飢えた皮膚」論
第三章 未完の関係性のために―「人魚伝」論
第四章 非/実在の影響力―「幽霊はここにいる」論
第五章 〈まなざされる〉脆さと加害性―『他人の顔』論
第六章 〈いのち〉の境界―『第四間氷期』論
第七章 未だ/既に存在しない他者たちへ―『第四間氷期』論
終章
あとがき

著者|author

岩本知恵(いわもと・ちえ)
1991年大阪府生まれ。立命館大学卒業、立命館大学大学院文学研究科博士課程後期課程修了。現在、立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員。専門は、近現代日本文学・文化。
主な論文に、「非/実在の影響力―安部公房「幽霊はここにいる」論」(『社会文学』第53号、2021年)、「未完の関係性のために―安部公房「人魚伝」論」(『昭和文学研究』第80集、2020年)など。

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