教育の経済
成り立ちと課題
- 三上和夫/2005年8月
- 3200円(本体)/A5判上製・302頁
教育政策の経済的な課題を総括する書。公的補助の不備、家庭の経済格差から生じる学歴格差などの問題を示し、教育政策について再考を促す。女性誌を資料として、家計に占める教育費増加の歴史も概観。
(ISBN 4861100496)
目次|indexs
序章 生活と教育のもつれあい―教育秩序の変動
生活場面としての学校の主題化
家族をとりまく社会空間
郊外の「物語」
時間意識と自己決定
時間意識と時間決定の自主性
教育資本と教育危機
支配的秩序の有効限界の外へ
第一章 地方分権一括法の社会的前提
はじめに―一九九〇年代社会への着目
第一節 生活圏域・家族と市場・組織
-少子社会
-通学通勤圏
-費用負担の型
-塾と学校―複合する教育制度
-少子化と教員養成
第二節 社会変化と教育システムへの要請
-社会動向と校則
-就学観のゆらぎ
-「会社本位」からの離脱
-「消費創出」という開拓線
第三節 教育行政機構の改変動向
-模索と構想の集約
-公費投入の多元化と分権化
-負担格差とあらたなまなざし
まとめ 「分権」への動きと教育委員会
-社会状況の変化と制度改変
-行政改革・分権化と教育委員会活性化
コラム1 中央教育審議会
第二章 家計支出教育費の定着
はじめに
-高度経済成長の教育的果実
-教育費の形
-女性雑誌と「主婦」の位置
第一節 「投資」としての教育―「教育の経済」成立前史
-教育投資政策の登場
-私学への批判と公費投入―一九七五年前後の教育社会
-教育投資意識の定着と相対化
-家計をめぐる社会と制度原理
第二節 循環(=「計画する家計」)形成と「教育の経済」の「成り立ち」
-一九八〇年代~九〇年代前半の時代特性
-『主婦の友』の「教育費取材」―話題提供による資金計画への誘導
-あたらしい着眼―全国的な取材構成による「教育費計画百科」
-「教育の経済」の「成り立ち」
第三節 家計支出教育費の万華鏡的様相
-『DIME』―数値表示の雑誌
-『微笑』で見る一八年間
-『SOPHIA』―ファイナンシャル・プランナーの登場
-『主婦と生活』という亜種
-『クロワッサン』―教育費負担反発と教育信念確認
-『ミセス』―ライフステージごとのやりくりと保障内容別資金設計
-『婦人倶楽部』―小回りのきくアドバイス
-『NEXT』―父親の「経済学」
まとめ―家計支出教育費と「教育と教育行政」
-「教育の経済」成り立ち―その理論構成
-公共性の外部としての「家計支出教育費」
-教育行政を補助とする教育の原理
-「教育の経済」と公費支出原則
-あらたな入会地
第三章 評価と社会・国家
はじめに
第一節 国家責任の歴史的分析
-財政政策と「国家責任」
-組織と市場へのまなざし
-国家責任論の展望
第二節 公教育論の構成
-公教育論の三段階と今日
-教育関係学会における「公共性」論
-公共性再編の課題
第三節 教育評価と社会・国家
-教育評価の位置―媒介としての「社会」と「通念」
-評価・目標サイクルと「教育と教育行政関係」の再政治化
-「教育評価」の責任範囲と公共性
第四節 教育振興基本計画と教育改革特区
-評価国家の二つの政策手法
-教育振興基本計画
-評価国家の機構関係と政策課題
-「特区」政策―空間の焦点化と政策目標
コラム2 教育政策
コラム3 生活指導・生徒指導
第四章 歴史的権利としての学校建営
はじめに
第一節 学校選択を考える視点
-「学校―社会」の歴史段階
-教育制度の戦後
第二節 就学の意味変化
-「信任」の後退 契約の「通念化」
-包括的・関係的概念としての在学契約
-教育的価値としての教育区
第三節 学習社会における人と法人
-インクルーシブな教育―「学習社会からの教育改革」の中間総括
-市民による教育事業
-官・民・公共
-学習社会の存在基盤―市民のまとまりと公益
第四節 学校建営の歴史的意義
-「就学」の二重化
-「学校をつくること」への着目
-教育政策と政策―評価の視点
-現代への示唆―一九四一年の「断絶」
コラム4 義務教育費国庫負担廃止問題
第五章 教育基本法と地域空間―教育制度の拡大・定着・成熟に着目して
はじめに
第一節 学区制と市町村
-市町村のまとまりと学校のまとまり
-一九七五年以降の教育と社会の経路
-高校という教育経験―市町村を越える学校制度
-政治と学事
第二節 教育の長期変動と法関係
-教育変動と「世代」
-「教育の公共性」の法関係
第三節 改変の現段階―「教育と教育行政」関係
-「教育と教育行政」の社会関係
-教育行政の空間的責任
-教育空間論の課題
第四節 地域と公共性―再編の方向
-都道府県による通学区域設定―後期中等教育整備の責任主体
-規制基調からの転換
-地域教育制度―システム構築の課題
まとめ
コラム5 学校選択制と学区制
コラム6 教育改革―学校選択と学区制度
コラム7 自治体の教育計画の策定
あとがき
人名索引
事項索引
著者|author
三上和夫(みかみ・かずお)
神戸大学発達科学部教授。主な著書に『学校と学区の地域教育史』(共編著、川島書店、2005年)、『学区制度と学校選択』(大月書店、2002年)など。
担当編集者から
本格的な教育経済論としてかっちりとしたつくり。先日、横浜で開催された教育学会でも好評を博す。各女性雑誌の「こんなにかかる教育費!」特集を追いかけて得られた具体的なオカネの実態は興味深く、塾に通い私立へ進学した私も身につまされた。改めて両親に感謝。天秤をモチーフにした装丁は萩原。[-井戸川-]