分かちあう経験・守りあう尊厳

ラスキン・カレッジの一九七〇年代における労働者教育

  • 冨永貴公(著)/2022年3月
  • 4500円(本体)/A5判上製300頁
  • 装丁:中島衣美

労働者は物語る――
英国の労働者教育機関「ラスキン・カレッジ」における歴史学習「ヒストリー・ワークショップ」、そこから発展して開催された全国女性解放会議「ラスキン会議」。1970年代にそこで行われた活動と対話による、労働者学生たちの尊厳獲得の過程を明らかにする。
労働者自身の手によって綴られた歴史と生活を読み解くことは、わたしたち自身の尊厳獲得にもつながっていく。
(ISBN 9784861107948)

目次|contents

序論  本書の課題と方法
第1節 本書の目的と意義
第2節 先行研究の整理
1.英国成人教育に関わる歴史研究とラスキン・カレッジの位置/2.歴史記述の方法としてのオーラル・メソッドとその教育への応用/3.生活をめぐる社会教育研究と生活の意味
第3節 研究方法と本書の構成
1.研究方法/2.本書の構成

第1章 ラスキン・カレッジにおける労働と生活の関係
第1節 「豊かな労働者」論における労働者階級の変化
1.「豊かな社会」における労働者の私生活中心主義/2.労働の手段化におけるシニシズム第2節 ラスキン・カレッジにおける教育の再編
1.カリキュラムの再編による教育と労働の結合/2.試験制度の改正による教育と生活の結合
第3節 ラスキン・カレッジにおける教育と労働と生活
1.労働者教育の手段化における労働と生活の分割不可能性/2.労働と生活をめぐる非対称な関係の気づき/3.労働と生活をめぐる非対称な場としてのラスキン・カレッジ

第2章 歴史と教育の生活化としてのヒストリー・ワークショップの発足
第1節  「はざま」を捉える思想としての社会史
1.労働運動史から労働史へ/2.労働史から「はざま」を捉える思想としての社会史へ
第2節 教育活動としてのヒストリー・ワークショップ
1.教育のオルタナティブとしての歴史研究/2.歴史における経験の位置
第3節 教育の生活化実践としてのヒストリー・ワークショップ
1.経験にもとづく教育内容/2.教育方法の生活化としてのオーラル・メソッド/3.教育の生活化による知の再構成

第3章 ラスキン会議における非対称性の問い直し
第1節 「下からの歴史」における女性の周辺化
第2節 ラスキン会議における平等賃金要求
1.平等賃金に対する見解の対立/2.社会主義フェミニズムによる平等賃金要求
第3節 経験をめぐる非対称性の問い直し
1.分割不可能な労働と生活の経験にもとづく「尊厳」の要求/2.階級を横断し、非対称な関係をつなぐ「尊厳」

第4章 ヒストリー・ワークショップというラファエル・サミュエルの物語り 00
第1節 労働者の教育と歴史における生きられた経験
1.労働者教育における生きられた経験/2.歴史を記述することの意味
第2節 ラファエル・サミュエルによる労働者の理解
1.組織化以前の労働者の経験 /2.労働と生活の自律的創造/3.異質な他者の労働と生活に対する視点
第3節 ラファエル・サミュエルの物語的交渉としてのヒストリー・ワー        クショップ
1.男女間の非対称な関係を捉えるフェミニズムの萌芽/2.受動性という教育者の物語り/3.終わらない物語りと物語りを通じた他者との共同

第5章 ヒストリー・ワークショップにおける労働者たちの物語り
第1節 労働経験の記述
1.労働過程に則した記述/2.労働者階級についての記述/3.労働の記述における生活の意義
第2節 生活の場における生きられた経験の記述
1.文化に関わる記述/2.家族に関わる記述/3.労働者による経験の記述における生活の広がり

第6章 生きられた経験の分かちあいにおける非対称な関係と尊厳
第1節 生きられた経験に関わる歴史記述と自己
1.生きられた経験の記述における直接的な自己と間接的な自己/2.自己としての生存・生活
第2節 関係のなかにある生存・生活
1.労働者に関わる社会的諸関係の記述/2.他者としての女性の生存・生活の記述
第3節 生存・生活の分かちあいによる尊厳の獲得
1.記述に値する生存・生活の発見/2.歴史記述における生存・生活の価値/3.非匿名性の追及と匿名性の保持
第4節 あいだにある尊厳のための教育

結論 尊厳を守りあう労働者教育の展開に向けて
第1節 分割不可能に経験される労働と生活
第2節 教育のアポリアに対する受動的な分有という物語り
第3節 尊厳のための他者との分かちあい

あとがき
引用および参照文献・資料
巻末資料
索引

著者|author

冨永貴公(とみなが・たかひろ)
所属・職位:都留文科大学教養学部地域社会学科・准教授
専攻・専門:社会教育学・生涯学習論、ジェンダー/セクシュアリティ研究
主要業績:『ワークライフバランス時代における社会教育』(共著、日本社会教育学会編、東洋館出版社、2021年)、「生=痛みを分有するためのわたしたちの生涯学習社会に向けて」『現代思想』(vol.47-7、2019年)

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