吉屋信子―小説の枠を超えて

吉屋信子

小説の枠を超えて

  • 山田昭子(著)/2024年7月
  • 3300円(本体)/四六判上製366頁
  • 装丁:大國貴子

一作家としての屹立
戦前の少女小説家の代表者である吉屋信子。しかし、彼女の文学世界はそこのみにとどまるものではなかった。
童話、少女小説、大衆小説、評伝小説と、領域を横断しながら描き出された多彩な作品を、丹念な書誌研究をもとに読み解く。
(ISBN 9784861109683)

目次|Contents

はじめに
Ⅰ 童話・少女小説
第一章 吉屋信子、その〈少女性〉――童話から少女小説へ
第二章 『花物語』における少女たちの裏切り――「睡蓮」論
第三章 〈競い合う少女〉たち――『少女倶楽部』における運動小説について
第四章 『花物語』の終焉――「薊の花」論
第五章 母からの離脱――『からたちの花』論
Ⅱ 大衆小説
第六章 遍歴する女と三人の男たち――『良人の貞操』論
第七章 まなざされるボルネオ――『新しき日』における『風下の国』の意味
Ⅲ 戦後――大衆小説・評伝小説
第八章 変転する〈母〉の物語――『安宅家の人々』論
第九章 歴史小説への紐帯――『香取夫人の生涯』論
Ⅳ 吉屋信子研究の現在とその展望
吉屋信子作品年表

著者|Author

山田昭子 (やまだ・あきこ)

神奈川県生まれ。専修大学大学院文学研究科日本語日本文学専攻博士後期課程修了。博士(文学)。現在、専修大学・東洋英和女学院大学・関東学院大学・白百合女子大学・立正大学の非常勤講師をつとめる。主な論文に、「『新女苑』における中里恒子の仕事」(『芸術至上主義文芸(49)』、二〇二三年一一月)、「二つの厠の物語――川端康成「化粧」、吉屋信子「隣家の厠」をめぐって」(『芸術至上主義文芸(48)』、二〇二二年一一月)、「文字の美しさと少女の美――少女雑誌広告に見る文字指導の変遷」(『ことばと文字(12)』、二〇一九年一〇月)など。

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芥川龍之介の中国遊歴―光と影の軌跡

芥川龍之介の中国遊歴

光と影の軌跡

  • 藤谷浩悦(著)/2024年6月
  • 6800円(本体)/A5判上製624頁
  • 装丁:根本眞一(クリエイティブ・コンセプト)

中国という鏡を通して、日本を見つめ直す
常に新しい分野に突き進もうとし、最後まで孤高を貫いた芥川龍之介。中国旅行は重要な転換点であり、心のなかで、決定的に何かが変わった――
本書は、芥川龍之介が一九二一年三月から七月までに行った中国遊歴について、同時代の中国や朝鮮、日本で起きた出来事に着目しつつ、芥川の前後に中国を遊歴した人々の記録を参照しながら再現し、あわせてこの中国遊歴が芥川に与えた影響を考察するものである。(本書序論より)
(ISBN 9784861109669)

目次|Contents

序論
第一編 東京から上海へ
第1章 旅立ちまで―中国への思い
第2章 上海到着の前後―東亜新聞記者大会
第3章 著名人との会談―鄭孝胥、章炳麒、李人傑
第4章 上海の名所探訪―芝居と歓楽街、芸妓
第二編 長江流域の周遊
第5章 杭州と蘇州の衝撃―排日運動の底流
第6章 蘇州、鎮江、揚州の周遊―江南の風景と情感
第7章 上海の別れ、蕪湖の再会―亡き母への思い
第8章 九江と廬山、漢口の旅―在留日本人の特徴
第9章 漢口から長沙へ―古典研究の隘路
第三編 北京から東京へ
第10章 京漢鉄道の旅―上海の極東オリンピック大会
第11章 洛陽から北京へ―文化の重さ
第12章 天津への嫌悪感―北京郊外の旅
第13章 田端の自宅への帰還―奉天、京城から東京へ
結論

著者|Author

藤谷浩悦 (ふじや・こうえつ)
1957年、秋田県に生まれる。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科(東洋史専攻)単位取得満期退学。博士(文学)。人文学研究者
著書:『湖南省近代政治史研究』(汲古書院、2013年)、『戊戌政変の衝撃と日本―日中聯盟論の模索と展開』(研文出版、2015年)、『井上雅二と秀の青春(一八九四-一九〇三)―明治時代のアジア主義と女子教育』(集広舎、2019年)
編著書:(饒懐民との共編)『長沙搶米風潮匯編』(岳麓書社、2001年)、『良き師と友、塾生に支えられて―藤谷正治郎(薫水)とその時代』(非売品、2017年)

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イギリス湖水地方―ピーターラビットのガーデンフラワー日記

イギリス湖水地方

ピーターラビットのガーデンフラワー日記

  • 臼井雅美(著)/2024年6月
  • 2200円(本体)/四六判並製162頁
  • 装丁・レイアウト:矢萩多聞

イギリス湖水地方で出会った、個性豊かな花々の共演――
季節の移ろいにそってトレッキングした際に出会った、カントリー・ハウスやコテージなどのガーデンとそこに植えられた草木をカラー写真とともに紹介するエッセイ。『イギリス湖水地方―ピーターラビットの野の花めぐり』(2023年)の続編。
(ISBN 9784861109485)

目次|contents

プロローグ
Ⅰ 春の囁きに誘われて
春雨のしずくの精たち クロッカス(Crocus)
パレットから飛び出した黄色いブーケ スイセン(Narcissus)
小さな星たちの願い ヒヤシンス(Common Hyacinth)
陽光に向けて、満面の笑顔 パンジー(Pansy)
大切な宝物を守っているよ チューリップ(Tulip)
秘境からやってきた客人 ブルーポピー(Blue Poppy)
にっこり赤ちゃんのほっぺ ナデシコ(Pink)
みんなで集まって大合奏 ベルフラワー(Bell Flower)
黄色のショールがふんわりと レンギョウ(Golden Bells)
ハンカチを振ってごあいさつ モクレン(Mulan Magnolia)
両手からこぼれそうな幸せの束 シャクナゲ(Rhododendron)
秘密の誓いの証 バラ(Rose)
Ⅱ 初夏から夏へ、光との共演
小さな森から顔を出した子供たち ベゴニア(Begonia)
溢れ出る思いを込めて ペチュニア(Petunia)
窓辺のささやき声 ゼラニウム(Garden Geranium)
耳元で揺れるイヤリング フクシヤ(Fuchsia)
小さな蝶たちのピクニック ロベリア(Edging Lobelia)
葉っぱのお皿に添えられて ナスタチウム(Nasturtium)
香りのメッセンジャー ラヴェンダー(Lavender)
虹色のキャンドルが放つ光 アイリス(Iris)
手のひらいっぱいの喜び クレマチス(Clematis)
色と水の魔術師 アジサイ(Japanese Hydrangea)
黄緑のクッションにもたれて ギボウシ(Plaintain Lily)
庭で踊るボールたち アリウム(Allium)
雨上がりに灯った小さな炎 アザレア(Azalea)
天から降り注いだ金の鎖 ラバーナム(Laburnum)
紫のドレスに包まれて フジ(Japanese Wisteria)
揺れる赤いビーズの房 セイヨウスグリ(Gooseberry)
Ⅲ 秋のそよ風に揺れて

星たちの静かな願い アスター(Aster)
宇宙からの使者 コスモス(Common Cosmos)
秋風に向かって、Shall we dance? シュウメイギク(Japanese Anemone)
黄色いコスチュームでイナバウワー イエローコーンフラワー(Yellow Coneflower)
庭を跳ね回る子供たち エキノプス(Echinops)
荒れ地から噴き出した恵み エリカ(Erica)
背伸びをして何を見ているの? ユリ(Lily)
秋を守るガードマン パンパスグラス(Pampas Grass)
恥ずかしがり屋さんのシルエット シクラメン(Cyclamen)
魔女が吹きかけた息の跡 ウィッチヘーゼル(Witch Hazel)
Ⅳ 冬から春に向けて
雪の精からの贈り物 クリスマスローズ(Christmas Rose)
暖かなケープをまとって ツバキ(Camellia Japonica)
寒風からしっかりと身を守って ボケ(Flowering Quince)
お祝いの時がやってきたよ セイヨウヒイラギ(European Holly)
春へのプレリュード セイヨウサンシュユ(Cornelian Cheery Dogwood)
赤と緑のネックレス コトネアスター(Cotoneaster)
ほのかな灯りのシンフォニー ロウバイ(Chimonanthus)
エピローグ
参考文献

著者|author

臼井雅美(うすい・まさみ)
1959年神戸市生まれ。同志社大学文学部・文学研究科教授。神戸女学院大学卒業後、同大学院修士課程修了(文学修士)、1987年ミシガン州立大学修士課程修了(M.A.)、1989年博士課程修了(Ph.D.)。ミシガン州立大学客員研究員を経て、1990年広島大学総合科学部に専任講師として赴任。同大学助教授、同志社大学文学部助教授を経て、2002年より現職。著書に、『記憶と共生するボーダレス文学―9・11プレリュードから3・11プロローグへ』(2018年)、『カズオ・イシグロに恋して』(2019年)、『赤バラの街ランカスター便り』(2019年)、『ビアトリクス・ポターの謎を解く』(2019年)、『不思議の国のロンドン』(2020年)、『ボーダーを超えることばたち―21世紀イギリス詩人の群像』(2020年)、『記憶と対峙する世界文学』(2021年)、『ふだん着のオックスフォード』(2021年)、『イギリス湖水地方アンブルサイドの女神たち』(2021年)、『イギリス湖水地方モアカム湾の光と影』(2022年)、『ブラック・ブリティッシュ・カルチャー―英国に挑んだ黒人表現者たちの声』(2022年)、『イギリス湖水地方におけるアーツ・アンド・クラフツ運動』(2023年)、『イギリス湖水地方―ピーターラビットの野の花めぐり』(2023年)などがある。

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バーナード・ショー戯曲集 下―民族主義と帝国主義の相克

バーナード・ショー戯曲集 下

民族主義と帝国主義の相克

  • 日本バーナード・ショー協会(編訳)/2024年4月
  • 4500円(本体)/A5判並製568頁
  • 装丁:矢萩多聞

21世紀によみがえる、イギリス近代劇の巨人バーナード・ショー
真剣な提言を常にウィットと笑いにくるんで提供し、社会改善と人類の向上に生涯を捧げた、イギリス近代劇の巨人バーナード・ショー。下巻には、本邦初訳となる「ジョン・ブルの別島」「本当すぎて良いわけがない」「善き王チャールズの黄金時代に」を含む6作を収録。
(ISBN 9784861109393)

目次|contents

ブラスバウンド船長の改宗(大塚辰夫・森岡稔 訳)
ジョン・ブルの別島(小木曽雅文 訳)
アンドロクレスとライオン(新熊清 訳)
聖女ジャンヌ(磯部祐実子 訳)
本当すぎて良いわけがない(的場淳子・飯田敏博 訳)
善き王チャールズの黄金時代に(河野賢司 訳)
バーナード・ショー 生涯と作品/あとがき(森川寿)
バーナード・ショー年譜(大浦龍一)
本邦上演年表(大浦龍一)
邦訳文献目録(大浦龍一)
下巻 訳者・執筆者一覧

編訳者|Editor and Translator

日本バーナード・ショー協会

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バーナード・ショー戯曲集 上―フェミニズムの地平

バーナード・ショー戯曲集 上

フェミニズムの地平

  • 日本バーナード・ショー協会(編訳)/2024年4月
  • 4500円(本体)/A5判並製508頁
  • 装丁:矢萩多聞

21世紀によみがえる、イギリス近代劇の巨人バーナード・ショー
真剣な提言を常にウィットと笑いにくるんで提供し、社会改善と人類の向上に生涯を捧げた、イギリス近代劇の巨人バーナード・ショー。上巻には、本邦初訳となる「ファニーの初めての戯曲」「ミリオネアレス」やミュージカル『マイ・フェア・レディ』原作の「ピグマリオン」を含む6作を収録。
(ISBN 9784861109386)

目次|contents

ウォレン夫人のお仕事(森川寿 訳)
分からぬもんですよ(山本博子 訳)
結婚しかけて(松本承子 訳)
ファニーの初めての戯曲(大浦龍一 訳)
ピグマリオン(大江麻里子 訳)
ミリオネアレス(山口美知代 訳)
上巻 訳者・執筆者一覧

編訳者|Editor and Translator

日本バーナード・ショー協会

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世紀転換期文学の思想空間―明治文壇のニーチェ熱と宗教の季節

世紀転換期文学の思想空間

明治文壇のニーチェ熱と宗教の季節

  • 清松大(著)/2024年3月
  • 4000円(本体)/四六判上製314頁
  • 装丁:矢萩多聞

急速な近代化がもたらす矛盾やひずみが表面化し、近代日本宗教学の確立期でもあった明治30年代(1900年前後)。過渡期の思想的混迷に焦点を当て、「惑乱」に揺れる文学空間の実相を多様な角度から照射する。外来思想の移入と受容、宗教という視点から世紀転換期の文学空間を見渡す。
(ISBN 9784861109560)

目次|contents

序章
第一部 外来思想の移入と文学空間―ニーチェ受容を視座として
第一章 戯画化されるニーチェ―「滑稽」と「諷刺」の模倣
第二章 「衒学」をめぐる帝大閥と早稲田派の応酬
第三章 〈劇薬〉としての外来思想と宗教―ニーチェイズムとモルモン教の奇妙な結合
第二部 〈宗教〉の季節と文学―せめぎあう信仰と懐疑
第四章 明治期ハンセン病文学と「信心」のゆくえ
第五章 宗教の「理想」と勧善懲悪―中村春雨のキリスト教小説を中心に
第六章 「無信仰の文壇」からの(再)出発―中江兆民『続一年有半』と「宗教」のロマン化
第三部 明治・大正の時代精神と永井荷風
第七章 「地獄の花」の同時代受容とニーチェ熱
第八章 錯綜する神秘主義と自然主義―洋行期荷風の音楽論生成をめぐって
第九章 仮構される日露戦後空間―「父の恩」と〈民衆〉の問題系
終章
初出一覧
あとがき

著者|Author

清松大 (きよまつ・ひろし)
1988年福岡県生まれ。
慶應義塾大学大学院文学研究科後期博士課程所定単位取得退学。博士(文学)。
学習院高等科・慶應義塾大学文学部非常勤講師を経て、2021年4月より宮崎産業経営大学法学部講師。
共著に、『『文藝首都』——公器としての同人誌』(小平麻衣子編、翰林書房、2020年)、『大沼枕山と永井荷風『下谷叢話』——新視点・新資料から考える幕末明治期の漢詩と近代』(合山林太郎編、汲古書院、2023年)など。
論文に、「〈従軍記〉の拡散と変容——戦時下メディアにおける池田さぶろの漫画作品」(『跨境 日本語文学研究』第6号、2018年8月)、「〈癩文学〉の大衆化と科学——北條民雄神話の形成から小川正子『小島の春』へ」(『社会文学』第55号、2022年3月)など。

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共生と記憶の比較文化論―ともにつくる歴史と現在

共生と記憶の比較文化論

ともにつくる歴史と現在

  • 都留文科大学比較文化学科(編)/2024年3月
  • 4000円(本体)/A5判上並製368頁
  • 装丁:長田年伸

多様な文化的背景を持つ他者を理解し、共存・共生していく道を見つける、その取り組みの現在地。都留文科大学比較文化学科創立30周年出版

(ISBN 9784861109522)

目次|contents

総論
第1章 ある「養女」の物語―アメリカのサーカスに生きた日系軽業師テトゥ・ロビンソン (青木 深)
第2章 二つの時代の「自衛」論と「侵略」論の相剋  (伊香 俊哉)
第3章 沈黙しない「共生」の模索―バルセロナ空襲の記憶と現地在住イタリア人  (上野 貴彦)
第4章 「フィリピン国民」の道徳と文化―一九三九年「国民倫理規定」に見る道徳・歴史・文化  (内山 史子)
第5章 「ステークホルダー資本主義」は共生の思想たりうるか?  (菊池 信輝)
第6章 美術アーカイブの現在―アジアの美術における記憶の共有  (岸 清香)
第7章 There is such shelter in ourselves―ゼイディ・スミス『美について』を中心に  (齊藤 みどり)
第8章 若年女性の「働く」選択をめぐるジェンダー規範のゆらぎ―インド、アフマダーバード市におけるNGOの職業訓練を事例に (佐藤 裕)
第9章 韓国・朝鮮の基層文化と現代 (邊 英浩)
第10章 米国のメキシコ移民同郷会による異種混淆のコミュニティ―「家族的類似性」にもとづく連帯  (山越 英嗣)
第11章 「温泉タトゥーお断り問題」―「理不尽な校則」との共通性の考察  (山本 芳美)

編者|editor

都留文科大学比較文化学科
1993年に、教員養成系大学として知られる都留文科大学において唯一教員養成課程を擁しない学科として設立。国際性、現代性、学際性を基本理念とする。

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私たちはシェイクスピアの同時代人―映画にみる現代人のルネサンス的心性

私たちはシェイクスピアの同時代人

映画にみる現代人のルネサンス的心性

  • 中村友紀(著)/2024年3月
  • 3600円(本体)/四六判上製308頁
  • 装丁:毛利一枝

シェイクスピア再生産の長きに亙る持続の理由を探り、現代の個人や社会の中に近代初期的な思考や諸価値が生きていることを跡づける。

翻案という表象の手法自体は大変古いものであり、古代ギリシャ演劇も、ギリシャの神話や伝承の劇化であり、セネカ悲劇もギリシャ悲劇の翻案であった。ルネサンスのイングランドの悲劇も、文士たちのセネカ悲劇の模倣から始まった。シェイクスピアの場合、作品の殆ど全てに、何らかの種本がある。常にどの時代の作家たちも、自分たちとは異なる思考や表現方法を持つ異文化の表象に触発されて、それぞれの様々な動機により、自分たちの懸念や関心を表現してきた。既に決まっているプロット、既存の台詞、既存の登場人物たち、これらの要素が、翻案においては制約や制限とは捉えられず、むしろ強力な訴求力を持つ表現のモデルとして、再利用された。先に引いたシムキンの指摘にあったように、社会への不満や懸念などに強烈な表現を与える際に、復讐劇というセネカ由来でありギリシャ由来でもあるフォーマットを、近代初期の劇作家たちはこぞって利用した。古典の教養を基盤とする人文主義教育を受けた文士たちにとって、レトリックの手本として、また、モラルの手本として熟知したラテン文学は、彼らの問題意識の表現の媒体として、非常に有効であった。コットにとってシェイクスピアが同時代人であったように、ルネサンスの文士たちにとっては、セネカは同時代人であったといえる。(本文より)

(ISBN 9784861109614)

目次|contents


第1章 『エイリアン:コヴェナント』の人間性のルネサンス的パラダイム――『テンペスト』の現代的翻案
第2章 ユートピアとモンスター――『テンペスト』の翻案としてのリドリー・スコットの『エイリアン・コヴェナント』
第3章 エリニュエスの正義――ギリシャ悲劇、近代初期復讐劇、ヴィジランティ映画の暴力と倫理
第4章 ヴィジランティの正義と暴力――復讐劇プロタゴニストの人物造型と現代映画に見る系譜的連続性
第5章 暴力表象のルネサンス的様式――『タイタス・アンドロニカス』と『デス・ウィッシュ』
第6章 ボレアリズム的『ハムレット』――映画『ノースマン』の北欧表象
第7章 文化を翻訳する方略――『マクベス』と『蜘蛛巣城』とクライテリオンの二種の字幕
あとがき
参考文献一覧
索引

著者|author

中村友紀(なかむら・ゆき)
関東学院大学経営学部教授、専攻・イギリス文学、ルネサンス研究
関西学院大学大学院博士後期課程単位取得退学
著書『パブリック圏としてのイギリス演劇――シェイクスピアの時代の民衆とドラマ』(春風社)
翻訳『シェイクスピアの祝祭の時空――エリザベス朝の無礼講と迷信』(フランソワ・ラロック著、柊風舎)。

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安部公房と境界―未だ/既に存在しない他者たちへ

安部公房と境界

未だ/既に存在しない他者たちへ

  • 岩本知恵(著)/2024年3月
  • 4000円(本体)/四六判上製286頁
  • 装丁:矢萩多聞

捉えようとすればするほど曖昧になりがちな境界に着目、安部公房作品を様々な境界を問い直し攪乱する実践として論じ読み取る。

どれほど境界の非安定性を描出し、固定化不可能なものとして記述しても、それが言語によるものであり、しかもそれを論じるという形式をとる以上、既存の言説に対抗するための新たな境界、新たな言説は産出されてしまう。ならば、ここで有用なのは、オルタナティブな言説や境界を打ち立てることではなく、オルタナティブな言説や境界たちを記述することである。それは、集権的で支配的な規範を分散させ、様々な言説や境界や認識の可能性をパラレルに配置することになるだろう。境界の非安定性を限りなく拡張し可視化すること、産出された境界の本質化を限りなくずらし、遅延させ、別の認識の可能性を提示すること、こうした記述によって、境界を固定化する力に抗いたい。(本文より)
(ISBN 9784861109409)

目次|contents

序章
第一章 変形する身体境界―「赤い繭」論
第二章 自他境界=言語化できない欠如の場所―「飢えた皮膚」論
第三章 未完の関係性のために―「人魚伝」論
第四章 非/実在の影響力―「幽霊はここにいる」論
第五章 〈まなざされる〉脆さと加害性―『他人の顔』論
第六章 〈いのち〉の境界―『第四間氷期』論
第七章 未だ/既に存在しない他者たちへ―『第四間氷期』論
終章
あとがき

著者|author

岩本知恵(いわもと・ちえ)
1991年大阪府生まれ。立命館大学卒業、立命館大学大学院文学研究科博士課程後期課程修了。現在、立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員。専門は、近現代日本文学・文化。
主な論文に、「非/実在の影響力―安部公房「幽霊はここにいる」論」(『社会文学』第53号、2021年)、「未完の関係性のために―安部公房「人魚伝」論」(『昭和文学研究』第80集、2020年)など。

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十九世紀小説の誕生―ディケンズ前期小説におけるジャンルの変容

十九世紀小説の誕生

ディケンズ前期小説におけるジャンルの変容

  • 新野緑(著)/2024年3月
  • 4000円(本体)/四六判上製336頁
  • 装丁:矢萩多聞

ジャーナリズム、イラストレーション、ピカレスク、メロドラマーー多様なジャンルを経て、独自のリアリズムへ。
19世紀的都市型作家ディケンズはどのように生まれたのか? 『ボズのスケッチ』から『バーナビー・ラッジ』に至る前期小説6編におけるジャンル、モチーフの変容に着目し、作家的発展の軌跡をたどる。
(ISBN 9784861109171)

目次|contents

序章 小説というジャンル
第1章 ジャーナリストから小説家へー『ボズのスケッチ』の構成をめぐって
第2章 挿絵との交渉ー『ピクウィック・ペイパーズ』における小説家の位置
第3章 境界線を引くー『オリヴァー・トゥイスト』におけるリアリズムの探求
第4章 新たな創作の形を求めてー『ニコラス・ニクルビー』におけるジャンルの変容
第5章 都市型作家の誕生ー『骨董屋』に見るディケンズの自己形成
第6章 せめぎ合う言葉ー『バーナビー・ラッジ』における謎の創出
第7章 現実と想像の間ーディケンズと群衆
第8章 ロンドンの胃袋ーディケンズと市場
終章 ジャーナリストから都市型作家へ
あとがき
初出一覧
参考文献
図版出典一覧
索引

著者|author

新野緑(にいの・みどり)
大阪大学大学院文学研究科英文学専攻博士後期課程中退 博士(文学)。ノートルダム清心女子大学教授、神戸市外国語大学名誉教授。著書に、『〈私〉語りの文学ーイギリス19世紀小説と自己』(英宝社、2012年)、『小説の迷宮ーディケンズ後期小説を読む』(研究社、2002年)など。

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